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巻頭特集「矢掛丸ごとホテル」で観光立町実現

“ホテル”の玄関ビジターセンター・道の駅開業 完成形へ向け整備進み先進事例として脚光

  • ホテルのフロント機能を持つ矢掛ビジターセンター問屋

 コロナ禍でありながら、今矢掛町には全国の自治体などから視察が相次いでいる。町一丸で取り組む、町全体を一つのホテルとみなして観光客をもてなす分散型宿泊施設「アルベルゴ・ディフーゾ(AD)」の先進事例として注目されているからだ。3月28日にはそのホテルのフロント的な役割を担う観光案内所「矢掛ビジターセンター問屋」がオープンしホテルとしての完成度が高まる。

 ビジターセンターは伝統的な建造物が立ち並ぶ矢掛宿の古民家を町が改修し開設した。(一財)矢掛町観光交流推進機構(やかげDMO、金子晴彦理事長)が指定管理者となり入居、来訪者に観光情報の提供や宿泊・飲食施設の紹介、観光ガイドの手配を行うほか、観光客のニーズを把握しマーケティングも行う。

 ADとは古民家などを宿泊施設に既存の飲食店、小売店をホテルのレストラン、物販店に見立てて町全体で観光客をもてなすもので「町丸ごとホテル」とも称される。これまで同町内では順次宿泊施設を整備し、現在は5棟、35室、収容能力は99人と増加。飲食施設も増えてきている。同センターはこれらの町のホテル機能をつなぐフロント的な機能を担うことになる。

 また、同日同センター近くの国道486号沿いに道の駅「山陽道やかげ宿」もオープン。工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が監修したシンボル的な建物で、大型バス10台を含む39台分の駐車場を備え、従来は国道から見えなかった矢掛宿=町丸ごとホテルのゲートの役割として整備した。道の駅としてもADのコンセプトを流用し飲食・物販店を置かず矢掛宿の店舗を利用してもらう「矢掛丸ごと道の駅」として運用する。

 町丸ごとホテルづくりは、人口減に危機感を抱き「転入人口を増やすには観光振興しかない」と舵をきった山野通彦町長の呼び掛けに応じた㈱シャンテ(矢掛町)の安達精治社長が宿泊施設「矢掛屋」を開業することから始まった。

町を守る住民の意識の高さ

 知名度のないよくある中山間の矢掛町の事業に全国のホテルを再生してきた安達氏がわざわざ乗り込んできたのは、「伝統的な町並みの中で人が実際に生活し町に誇りを持ち、町を守ろうとする意識が強く協力を得られそうだったから」と言う。当時単発のホテル再生から地域全体の再生のビジネスへの転換を進めていた同氏にとって最適の地と言えた。

 その後、シャンテは宿泊施設、飲食施設などを相次ぎ開業。また、矢掛宿の空き店舗へ商店街組織も飲食・物販店の誘致に動いた。

 こうした成果に対し、町も古民家改修の費用を予算化したほか、空き店舗誘致に補助率最大3分の2という破格の補助金を創設し、強力にバックアップした。

2018年6月にはイタリアの団体から同町はADの認定を受けた。方向性がたまたまADの理念とマッチしていたため。

 これらの取り組みで同町への入込観光客数は2013年度18万人だったのが、矢掛屋開業後の15年度に28万人に増加、その後30万人台を維持と異例の成長を遂げている。矢掛では旧矢掛本陣石井家など国指定重要文化財だけでなく町全体に伝統的な雰囲気が残り宿泊、食事、買い物、散策などすべてでタイムスリップしたような体験ができることが観光客の心に響いた。まさに「町丸ごとホテル」あっての成果だった。

町の観光行政のベースに

 「ADが矢掛の観光地としての潜在的な魅力を高めている」という山野町長は、その方向性に自信を深め「町丸ごとホテル」というコンセプトを観光戦略のベースに転換、従来以上にADを意識し推進している。

豊かな自然と一体感を

 そのほか、既存のものを生かすという観点から、同町では商店街の南側にある小田川、嵐山の整備も進めたい考え。河川敷に親水公園などを設ける。「豊かな自然と宿場町とで一体感を持たせたい」という。ADで言えばホテルの庭園に当たるとも言え、国土交通省の「かわまちづくり」の制度を活用する方向で検討していく。

 さらに「現状矢掛観光に欠けているものは何か、それをどう補うかが今後の課題」(山野町長)という。町全体の観点から商店街の店舗の誘致も「不足している業種に絞ることも検討する必要があるのでは」とする。

 同町では今後やかげDMOなどと連携し観光ビジョンを策定する方針。観光振興事業の立案、実行の基本は既に「町丸ごとホテル」となっているが、町の観光の羅針盤となる観光ビジョンとして明確に打ち出すことで、さらなる観光立町の加速を図る考え。

 山野町長は「道の駅、ビジターセンター開業などでとりあえず体制が整備されたが、まだまだ7合目。さらに上を目指したい」と意欲を見せている。


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