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連載記事杉山慎策の経営学考察

メメントモリ

 2020年から世界で猛威を振るったコロナウイルス感染症もやっと一段落しそうである。1918年のスペイン風邪では全世界で5000万人から1億人の死者が出たと言われるが、今回は奇跡的にワクチンが早く開発され、全世界の公式の死者数は約680万人となっている。もっとも、世界保健機構(WHO)は実際の死者数は1500万人を超えると推定している。大きなパンデミックであったことは間違いない。

 中世ヨーロッパでは黒死病(ペスト)によるパンデミックがあった。厚生労働省検疫所(FORTH)の情報によれば、世界で5000万人以上が亡くなったと推定されている。欧州だけでも2500万人、人口の三分の一が亡くなったと言われる。神に一生懸命お祈りをささげても、身近な愛する人がバタバタと亡くなった。人々は「メメントモリ」という言葉を残している。これは「死を忘れるな」という意味である。

 パンデミックは大きな変化を生み出した。先ず最初に、人と神の関係が大きく変化し、絶対視されていた神の存在に変化が生まれた。これは後に宗教改革に結び付く。次に、パンデミックにより働く人が減少するために賃金が高騰し、生産性が大きく向上した。この動きは若干の論理的飛躍があるかも知れないが、産業革命につながったと考えている。

 そして、パンデミックは「ルネッサンス」を生み出した。この語源はギリシア語からきた宗教用語で「死者の再生」という意味の「パランジェネジー」と言う言葉である。これをフランス語式に言い直したものが「ルネッサンス」である。日本語では「文芸復興」とも訳されるが、元々の意味は「死者の再生」なのである。中世までの絶対視されていた「神」の表現から、「人」そのものの美しさを表現するアートへと転換された。ウィフィツィ美術館のボッティチェリの「プリマヴェーラ」などでは高らかに人の「美」が表現されている。また、ミケランジェロの「ダビテの像」は高さ5.2mもあり、「神」を超えるような人間賛歌に圧倒された思い出がある。学生たちには、教科書の中に留まらず「本物」を見ることを強く勧めている。

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本誌:2023年6月5日号 19ページ

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