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連載記事杉山慎策の経営学考察

ニクソン・ショック3

 ニクソン大統領は既に述べてきたように大きな貢献を二つした。一つは戦後のブレトンウッズ体制である金・ドル本位制から変動相場制に移行させたことである。金の供給には一定の制限があり、それに対してドルはある意味無制限に発行が可能なので、一定の交換レートに固定することには元々無理があった。成熟した民主的国家が存在し、その主要国の中央銀行が協調できれば変動相場制が一番経済合理性にかなっている。オイルショックなど幾度もの危機に見舞われながら、ニクソンが変革した変動相場制度は今日も機能している。

 もう一つの貢献は中国を台湾に代わり世界に取り込むことで、世界経済は大きな成長を遂げることができた。工場を持たないアップルが中国を生産工場の基地にすることで、世界でもっとも価値のある会社になったことも、テスラのような新たな自動車メーカーの台頭も、中国が世界経済の中で孤立していたら実現不可能であったと考えられる。米国企業のみならず欧州そして日本の企業も中国経済の発展により大きな利益を得たことは間違いない。

 ニクソンのこの二つの貢献に加えて、忘れてはいけないもう一つの貢献はベトナム戦争を終結させたことである。アメリカの若者を傷つけ、アメリカの経済にダメージを与えることで、アメリカ社会の大きな負の遺産であったベトナム戦争を、1973年1月パリ和平協定を結ぶことで解決し、アメリカ軍は1973年3月に撤退した。中国との国交樹立やベトナムとの和平協定を結ぶことに貢献したのはニクソンが任命したキッシンジャー特別補佐官であった。

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本誌:2023年11月6日号 23ページ

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