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巻頭特集Ⅱ働き方改革インタビュー Y’sオフィス代表 川上陽子氏

働き方改革は「生き方改革」 ワーク・ライフバランスを生き残りの経営戦略に

  • 「働き方改革は生き方改革」と語る川上陽子氏

 安倍内閣が一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジと位置付ける働き方改革。大企業を中心に残業時間削減などの取り組みは広がりつつあるが、中小・零細企業の多くはまだ緒に就いたばかり。そこでビジネスコミュニケーション研修講師で、ワーク・ライフバランス(WLB)のコンサルタントとして活躍する川上陽子氏=Y’sオフィス代表=に、働き方改革がクローズアップされている背景、その本質的な意味、企業に求められる対応などについて聞いた。

 ―政府の打ち出した働き方改革とはどのようなものなのか。

 働き方改革という言葉からは「会社の中で業務のやり方をどう改善するか」とイメージされがちだが、安倍内閣が進める改革は単なる業務改善ではなく「生き方改革」だと思っている。今の日本の労働者は長時間労働で疲弊しているのに生活は潤わず、豊かさとはかけ離れた社会になってしまっており、これを改善していくためには「働き方」を変えていかなければならないということ。「長い時間働いている人が仕事のできる人」「仕事だから仕方ない」といった考えを見直し、負のスパイラルを逆回転してみんながWLBを実現できる社会にしていくのが働き方改革の大きな目的ととらえている。

 ―急にクローズアップされるようになった背景。

 安倍内閣が働き方改革を成長戦略の第3の矢、構造改革の柱と位置付けて担当大臣を任命し、内閣府に「実現会議」を置いてことあるごとに発信していることで「政府は本気だな。日本はそちらに向かっていく」と感じ、トップレベルの企業から徐々に広がっていることころだと実感している。

 今後、人手不足が劇的に改善されることはなく、どこに労働力を求めるかというと、まずは欧米諸国に比べ日本では埋もれた存在となっている生産年齢人口の専業主婦。政府も税制などを改革し、専業主婦が働きやすくなるよう動いている。また、働いている女性が結婚や出産で会社を離れなくて済むために保育園も整備する必要があるし、高齢者や障害のある人も働ける社会にするには、短時間やテレワーク等の制度整備も必要。団塊世代が70歳を迎え、親の介護のために離職・休業せざるを得なくなる「大介護時代」も目前に迫っており、みんなが時間的な規制を抱えながら業務を継続できるように、個人ではなくチームで生産性を上げるようにシフトしていかなければならない。

 ―現在の状況は。

 コンサルタントまで入れて取り組んでいるのは都市部の企業の方が多いが、岡山でも中規模クラスの企業では、ほとんどがノー残業デーなど残業削減に取り組んでいる。ただ、研修に行くと「ノー残業デーは形だけ」「残業申請制度になってもハンコをもらう手間が増えただけ」という声も多い。昨年度から岡山県の委託事業で、部下や自らのWLBに取り組みながら業績にも結果を出す上司「イクボス」の掘り起しなどに取り組んでいるが、現場の担当者は問題意識を持っていても、過去の成功体験を持つ経営者、幹部は今までのやり方をなかなか変えられないようだ。

 ―具体的にはどのようなことから取り組めばよいのか。

 ノー残業デーとか、女性の活躍推進だから女性をリーダーにする企業が多いが、100社あれば100通りの課題があり、同じように残業の多い会社でも原因は異なる。まずはトップが「やるぞ」という意識を持つこと。そして業務を分析し、取り掛かりやすいところや問題の多いところからスモールステップで、正しい手順に沿って進めるべき。

 残業代を社員側は収入源、経営側はコストとしかとらえていないような根本の部分を変えないまま、安易にノー残業デーなどを取り入れても課題解決にはならない。同じ仕事でも生産性の高い人がいればそうでない人もいる。新人であれば時間がかかるのは当たり前だが、指導すべき立場の上司にその時間がない。原因として、本当は必要でないところに時間をとられてしまっていないか。第三者である専門家の客観的な目で課題を「見える化」することが大切になってくる。

 国は兼業・副業やフリーランスなど「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を発足させた。兼業・副業に関してはこれまでリスク回避優先で就業規則などで禁止されてきたが、これからは才能のある人は時間や場所にしばられず業務を請け負う時代になる。昼休みも画一的に毎日正午から1時間取るのではなく、仕事の都合上30分で切り上げる日があれば、代わりに次の日は1時間半とって病院などの私的な用事に充ててもいいはず。近隣の飲食店も昼食の時間が分散すれば助かる。「今までやってきたからそれが当然」という考え方を変えてみる勇気が必要なのではないか。

 ―WLBは企業経営にとってプラスか、それともマイナス?

 WLBという言葉自体に嫌悪感を示す経営者もいる。これまで厚生労働省が所管し、有給休暇や労働時間短縮など「WLBは従業員にとっての福利厚生」ととらえられているためだが、労働力が不足するこれからの時代、企業が生き残るための経営戦略と位置付けるべきだ。家より職場の方が居心地がいいという人も多いが、そんな社員は自己啓発の時間も取れないため最新のIT機器は使いこなせず、いろんな価値観に触れていないといいアイデアも出ない。そんな社員と、家庭はうまくいって自己啓発にも取り組み、しっかり睡眠がとれている社員のどちらが会社にとってプラスかといえば、たとえフルタイムでなくても絶対に後者のはず。

 日本社会全体が従来の価値観から大きく舵を切ろうとしている中、いち早くその流れをキャッチし、準備しておく。大企業以上に人手不足の影響を受ける中小・零細企業こそWLBに早く取り組んでもらいたい。

 川上陽子氏(かわかみ・ようこ) 岡山市出身。筑波大学第2学群人間学類教育学専攻卒業。中学校教諭、フリーアナウンサーを経て、社会保険労務士の資格を取得し2009年岡山市内にY’sオフィスを開設。ビジネスコミュニケーション研修講師として活躍しており、ワーク・ライフバランスでは県下第一人者。研修などに関する問い合わせはY’sオフィス(電話086-272-5820)へ。

本誌:2017年1.1号 8ページ

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